健康情報シリーズ

Hygeia 

                                       (Hygeiaとはギリシヤ神話の健康の女神)
 
 

インフルエンザとかぜについて
 

 第46号
 宮崎大学 医学部 保健管理センター分室  2004.12

宮崎大学医学部第三内科
床島眞紀
 夕暮れ時を早く感じるようになったかと思えば、もう12月。早いもので2004年ももう残りわずかとなってきました。振り返れば今年は自然の力を改めて思い知らされた、いろいろな災害が起こった大変な一年でした。夏の猛暑、立て続けにきた台風、さらには新潟中越地震。ここまで便利に発達した人間社会でさえ、自然の猛威には無力に等しいものだと感じさせられました。さらに、これから寒くなるといよいよインフルエンザの季節の到来です!
 インフルエンザとかぜが異なることは医学生の皆さんはよくご存知とは思います。ウイルスが原因であることは一緒ですが、比較的症状の軽いかぜとは違って、インフルエンザは流行的に発生し時に死に至るほど重篤化する疾患です。しかしながら、一般的にはまだインフルエンザとかぜが同じものと誤解している人が多いのはなぜでしょう?まずはその原因、言葉の由来について解説していきます。 
 遠い昔インフルエンザと思われる病気はヒポクラテスの時代からあったと考えられます。突如として発生し瞬く間に広がり、数か月のうちに消えていく。これが周期的に現れることから16世紀の占星家たちはこれを星や寒気の影響(influence)と考え、ここからインフルエンザ(influenza)と名付けられました。日本にも平安時代「増鏡」にインフルエンザと思われる記述があり、さらに江戸時代には「お駒風」「谷風」と名付けられた悪性のかぜの記述があります。1890年にアジアかぜ(A/H2N2)が世界的に流行したことからインフルエンザを流行性感冒(流感)と呼ぶことが定着してきたと言われています。また1918年のスペインかぜ(A/H1N1)は全世界で2500万人の死者を出したと言われ、日本でも2500万人の感染者、38万人の死者を出しました。アジアかぜ、スペインかぜ、流感などの呼び名がそのまま現在でも「インフルエンザ=かぜ」という誤解がとれない原因ではないかと思われます。
 インフルエンザは、インフルエンザウイルスが感染後1〜3日の潜伏期間を経て、突然38〜40度の高熱がでて発症します。通常熱は3〜7日続きます。ちなみに、インフルエンザは症状出現後3〜5日間、ウイルスを排出すると言われています。健康な成人であれば2〜3日で解熱しますので、熱が下がっても他に感染する可能性もあるため学校保健法では「解熱した後2日を経過するまで」を出席停止期間となっています。同時に悪寒、頭痛、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感などの全身症状が出現します。さらに小児や老人には二次感染のため細菌性肺炎などを合併したり小児においては脳症を発症することもあり致命的になることがあります。
 インフルエンザウイルスはウイルス粒子内の核タンパク質複合体(NPとM1)の抗原性の違いによってA型、B型、C型の3種類に分かれます。この中でA型とB型がヒトに感染し流行を起こしますが、この中でも特にA型が重要です。これらはさらに表面に突き出た2種類の糖タンパク質、ヘモアグルチニン(H型)とノイラミニダーゼ(N型)があり、これらの組み合わせによってさらに亜型に分類されます。一方、かぜはライノウイルス、コロナウイルス、パラインフルエンザウイルスなどが主な原因となります。これらはインフルエンザウイルスとは異なり、症状も軽度です。
 最近は2種類のA型インフルエンザとB型インフルエンザの3種類の型のウイルスが同じシーズンで検出されています。インフルエンザウイルスワクチンは毎年世界中の感染のサーベイランスを行い、その中でその年に最も流行する可能性が高いウイルスの型を予測し、ワクチンとして数種類を接種します。通常、ワクチンによる発病阻止率は70〜90%程度、小児ではさらに低いと言われています。また、ウイルスが突然変異を起こして違う型になってしまった場合には全く効果がありません。ということは、ワクチンは絶対的な手段ではないのです。ただ、現在他に有効な手段がないため、やはりワクチンの接種が最も有効な手段の一つであることは間違いありません。試験をひかえた皆さん、特に医学部6年生は今年の医師国家試験の時期が早まり2月には試験が行われるようですので、まさしくインフルエンザが猛威を振るっている時期でもあります。ワクチンの効果時期まで2〜3週間を要することから、できれば12月上旬ごろまでにインフルエンザウイルスワクチンを接種しておくようにしてください。
 昨年、高病原性鳥インフルエンザ(以下鳥インフルエンザ)が猛威を振るったのは記憶に新しいと思います。インフルエンザは毎年の流行のほかに、数十年ごとにそれまでとは抗原性の全く異なる新型インフルエンザウイルスの大流行(抗原性のシフト)がおこります。新型インフルエンザが発生した場合の世界的な被害はきわめて重大です。鳥インフルエンザはおそらく近い将来(早ければ今年にでも)ヒトでのpandemicがおこると考えられており、脅威となっています。
 ワクチン接種にも副作用はあります。注射局所の疼痛、発赤、全身アレルギー症状、かぜ症状、ときにインフルエンザ様の症状などがでる可能性はあります。しかし、これらはいずれも一過性です。周囲にインフルエンザの患者がいるからと慌ててワクチンを打ちにくる人がいますが、接種直後から効果が期待できるわけではありませんので、誤解のないように。
 インフルエンザの診断をするために最近では鼻、口腔粘膜の検査をすることで迅速に診断が可能になりました。以前は、検査の方法もなく、抗インフルエンザウイルス治療薬などの薬もありませんでしたが、最近では迅速診断キットがありますし、ザナミビルやオセルタミビルのような良い薬もあります。治療をする側としては非常に助かりますが、それでも100%診断できる訳でもありませんし、治療も絶対ではありません。やはりインフルエンザにかからないようにすることが一番重要です。そのためには、十分な栄養と休養をとる、人ごみを避ける、室内の乾燥に気をつける(適度な湿度を保つ)、マスクを着用する、うがい、手洗いを励行するなどが、最も簡単でしかも有効な手段です。
 受験をひかえた人にとっては、特に重要な疾患ですので、あまり無理をしすぎないように、また感染を予防する努力をしてください。万全の体調で、試験を乗り切れるようにがんばってください。


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