救急医学ほど漠然とした医学分野はない。そんな声を学生や若い医師からよく聞きます。そこで、救急医学をイメージするうえで、特に重要な3つの特徴について簡単に述べてみたいと思います。  
  救急医学を理解する場合、まずその診療対象をはっきりさせておくことが必要です。救急患者は外科、内科、眼科、耳鼻咽喉科など、どの診療科にも含まれています。これらの診療科の救急患者を診察し、その知識を断片的に教えるのが救急医学ではありません。まして時間外診療を教えることではありません。そうではなくて救急医学とは、突然に生命が危機的状態に陥った患者を系統的に治療する学問であり、それを一定のカリキュラムに従って体系的に教えていかなくてはなりません。もし、患者が自動車にはねられ、瀕死の状態になっている場合は、とにかく呼吸をさせ、心臓を動かせながら、どの部位から手術をするかを決定しなくてはなりません。生体に強い外力が加わると、身体のあらゆる機能が変化します。これらの変化をあらかじめ心得て、先手をうった治療を開始しなければなりません。このように救急医学は致死的な最重症の救急患者を卒前・卒後の教育対象とし、また研究対象ともしているのです。これが救急医学の第1の特徴です。
 救急医学の第2の特徴は、さまざまな救急事態の中で、外因によるものを特に重視していることです。外因とは外から加わった有害な作用を指し、交通事故などによる外傷や熱傷などが代表的なものですが、その他毒物による中毒などもこの中に含まれます。これらはいずれも容態の変化が著しく、直ちに処置しないと救命できないこと、今までの外科や内科などでは、あまり重視されていなかったことがその主な理由です。
 救急医学の第3の特徴は、初期治療と並んで救急治療学(Critical Care)を重要視していることです。そして、この点が初期治療のみを重視した米国の Emergency Medicine と根本的に異なっているところです。重症の救急患者が病院に運び込まれた場合に、救急外来における初期診断と緊急処置は救命のために不可欠ですが、同じように重要なのが手術と手術後の治療です。瀕死の状態で手術を行うわけですから、病室に収容した後での治療も尋常一様では済まされないからです。活発に活動している大学病院の救急部や救命救急センタ−では瀕死の救急患者の救命のために今までとは全く違った治療を行い、画期的な成果をあげています。本学においても、それを単に紹介するだけでなく、臨床の場に一刻も早く取り入れたいと考えています。 以上が3つの特徴ですが、「救急医学」をイメージすることができたでしょうか。
 ところで、このような救急医学を実践するためには、目的とする最重症患者を数多く収容し、治療していくことが不可欠です。ところが、このような重症救急患者は人口百万人当たり 1 日に数人しか発生しないと言われています。したがって、宮崎県のように人口が少ない地方都市では対象となる重症救急患者を数多く収容することは困難です。この悪条件を克服するためには、地域における救急活動に加えて、ヘリコプタ−などを活用した広域の救急医療を担っていく必要があります。本学のグランド内にあるヘリポ−トで航空自衛隊や海上保安庁などのヘリコプタ−が離発着している光景を見た人もいると思いますが、この患者搬送訓練もその実現に向けた取り組みの一つです。
 阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件以降、大規模災害や安全保障に対する危機管理体制の強化が唱えられ、救急医学の重要性はますます高まってきています。言うまでもなく救急医療が「被害管理」の中心的役割を担うからです。救急医学教室・救急部でも大規模災害を想定したトリア−ジ訓練や NBC (核、生物、化学) テロ事件発生を想定した対応などを積極的に行っています。興味のある諸君はぜひ参加して下さい。     
(宮崎医科大学「学園だより」より引用)     
                                                                                                                          
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