研究内容


環境因子と神経内分泌の関わり
   〜予防医学的観点から〜

 

 

1 栄養素による加齢性記憶力低下に対する抑制作用

 日本は1994年に高齢社会をむかえ、世界一の長寿国となりました。それに従って「寝たきり」や「認知症」など高齢化に伴う障害が増加しており、集団の健康状態を示す指標として従来から用いられてきた平均寿命では健康状態の評価には不十分となってきました。世界保健機関(WHO)はThe World health report 2000で健康寿命(Healthy Life Expectancy)という指標を提案しました。健康寿命とは完全に健康と言える状態のことで、疾病や怪我などにより自立生活が困難な年数を差し引いた余命のことです。この健康寿命を延ばすためには、普段の生活習慣の改善による疾病予防が非常に重要です。生活習慣の中でも食生活(食習慣)は健康寿命に大きく影響すると考えられます。栄養とは栄養素を体外から取り入れて利用し、生命を維持し、健全な生活活動を行うことです。より良い健康に、良い栄養状態は不可欠と言えます。また、老化や閉経による加齢性記憶障害は疾患によるものではなく、生理的な脳機能低下によるもので誰にでも起こりえます。脳機能低下による加齢性記憶障害は生活の質を下げ、本人のみならず周りの人の生活にも大きな影響を与えます。しかし、疾病による脳機能低下と異なり、普段の食生活により摂取する栄養素によって予防できる可能性があると考えられます。

 野菜や果物、豆類など多くの植物性の食品に含まれているファイトケミカルは、元々植物自身が太陽光線や虫などから身を守るためにつくりだす物質です。また、青魚には多価不飽和脂肪酸が多く含まれています。これらの物質の中には抗酸化作用など、生体に有益な作用が明らかになっているものもあります。中でも日常的に摂取することが可能な食品に含まれる栄養素に着目し、この栄養素による加齢性記憶力の低下抑制作用について研究しております。

 加齢性記憶力の低下は、海馬依存的な空間学習能力の主要な測定方法であるモリス水迷路で測定しております。また、栄養素の海馬神経細胞への作用について分子生物学的な手法により検討を行っております。

 

2 環境中化学物質の神経内分泌系への影響 

 一方、大気・水・土壌などの環境中には多くの化学物質が存在し、生体はこれらの環境中化学物質に常にばく露される可能性があります。これらの物質の中には神経内分泌系へ影響を与え、脳やさらには内分泌、免疫機能障害をもたらすことが懸念されているものがあります。

 環境中化学物質のうち、生体がばく露される可能性の高いものに着目し、これらによる神経内分泌系への影響について検討しております。特に環境中化学物質への感受性が高いと考えられる出生前後の時期に焦点をあてて研究を行っております。

 妊娠ラットの出生前後の時期に神経内分泌系へ影響を与えると考えられる環境中化学物質を投与し、仔ラットの脳や内分泌、免疫機能傷害について検討しております。